なぜ感動はいい尽くせないのか

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『感動のハナシ』第5回

前回に引き続き、今回も「感動の正体」を探っていきます。今回は、私たちの頭の中で起こっている現象にクローズアップ。「特定の出来事が深く心に響く・刻まれるのはなぜか?」という観点で「感動」の働きを紐解いていきます。

「この感動は言葉にならない!」とか「この感動は言葉ではいい尽くせない!」とかよく口にしますが、これはどういうことなのでしょうか。

「感動」の英訳には”emotion””excitement””impression”などありますが、専門家がいうにはピッタリする言葉はなく、強いていえば感嘆詞” Wow! “なのだそうです。

“emotion”は人の心理状態の受動的で主観的な側面を包括する言葉ですが、サイエンス用語ではそれを「情動」と訳し、”怒り、恐れ、悲しみ、などのように急激に生起した比較的激しい一過性の心的作用をさす。自律神経系の興奮による発汗や循環系の変化、あるいは表情の変化など身体的表出を伴うことが多い”ものとしてとらえています。この定義を踏まえれば、強烈な快感情のピークが感動だから感嘆詞の”Wow!”としかいいようがないのでしょう。なお、意識に上る感情をfeeling(感情)、意識に上らない脳内過程をemotion(情動)と区別することもあります。

人の感情を喜怒哀楽といいますが、心理学では驚き、喜び、怒り、恐怖、悲しみ、嫌悪の6つを基本感情とします。これらは単独で表出されることはなく、複数の感情が混ざりあった混合感情として表出され、それは30種類余りになります。(図B)

この人間だけが持つ豊富な感情レパートリィをもとに、なにかに深く感じて心が受けた衝撃から生じた混合感情が感動です。その心的作用の瞬間的な衝撃強度と混合感情の複雑さがとらえきれないとまどいから「言葉ではいい尽くせない」ものとなるのでしょう。

ただし、この「言葉ではいい尽くせない」感動は自問や自省を深めるきっかけとなり、その感銘度合いでよい感動として記憶に刻まれます。とともに繰り返し想像性を刺激したり、知性の高次化を方向づけたりするので、ときには発見や発明、創造をもたらします。だから知性・感性・判断力という人間らしい能力を磨くうえで感動は重要な役割を果たしています。

別な面からいえば、人の脳はいま自分が体験していることに対し、感情と経験で培った価値観から判断して、それが自分を変革するきっかけとなるかどうかを察知します。これは人間が脳を進化させることで生き延びてきたことに由来するものです。

新しい体験が自分の変革機会になると察知した時に、感動が起こる。それは言葉にならずいい尽くせない。けれど全身が震え、涙が流れる。

これらは、いま体験していることが人生の変革チャンスなのかもしれない、と察知した脳がわたしたちに報せるシグナルなのです。

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