感動分析コラム第2回:「ストーリー×仲間」で心の温度があがる?

INTERVIEW Text by:松本聡

今から数年前、世界的なスポーツイベントに、ムラヤマの社員がプライベートで参加しました。競技者でもなく、観客でもなく、ボランティアの一人として。

参加したのは事業推進グループに所属する山崎宗貴さん。生まれてはじめてボランティアに挑戦した彼は、そこで未体験の世界に出会い、大きく心を動かされたといいます。

体験の当事者に話を聞き、感動のエッセンスやメカニズムを考察する「感動分析コラム」。今回は、この山崎さんの体験をサンプルとして取り上げます。

ボランティアでなければ見られない景色。

じつは山崎さん、最初はあくまで観客としてイベントに参加するつもりだったとか。しかし、申し込んだ観戦チケットはすべて落選。それでも「このビッグイベントに参加する方法はないか?」と模索する中でたまたま出会ったのが「ボランティア」だったそうです。

山崎さんが申し込んだのは、スタジアムのフィールドイベントを盛り上げる、いわゆる「ショーキャスト」のボランティア。試合の前後で選手を誘導したり、歓迎のダンスパフォーマンスを行ったり、というのがその役割です。

観客であればチケットを入手した後は会場に足を運んでショーの開始を待つだけですが、キャストでの出演となると話は別。本番までに、かなりの時間と労力を費やすことになります。

事前のオリエンテーション、自宅でのダンス練習、さらに数百人のキャストが集まってのリハーサルを重ね、いよいよ世界が注目する本番の舞台へ……。

山崎さんは、ショーの本番のみならず、そこへ至るすべての体験が心に残るものだったと語ります。

「観客は、基本的に『観て楽しい』で終わりですよね。でも、今回の体験はそれとは全然違うものでした。ムラヤマの社員として数多くのイベント運営に携わってきましたが、それとも違う。出演者という立場で、なおかつボランティアという立ち位置でなければ見ることのできない景色を見られたように思います。それから、本番に向けてショーを創り上げていく過程は、生まれて初めての体験ばかり。純粋に楽しかったです(笑)」

みんなで一つの物語を作りあげる「楽しさ」。

第1回のコラムでは「目的達成に至るプロセスに起伏が多い方が、より大きな感動を得られる」というお話をしました。

今回の山崎さんの体験も、本番までに様々な出来事があり、だからこそより深く心に刻まれる体験になった……。そのように解釈することができそうです。

しかし、本番までに費やした労力と時間はなかなかのもので、はたから見ると「それ、けっこうシンドイのでは?」と思える出来事もチラホラ。それでも山崎さんは「そんなにシンドイとは感じなかった」「ちょっと大変かな?と思うことが少しあったくらい」と涼しい顔。むしろ、何度となく「楽しい」という言葉を口にしました。

いったいなぜ山崎さんは、一連の体験すべてをポジティブに捉え、そこに「楽しい」を見出すことができたのか?

詳しく話をうかがうと、いろいろな要素が「楽しい」につながっていることがわかったのですが、今回は、その中でも特に以下の2点についてクローズアップしてみます。

ポイント01「ストーリー」

ビッグイベントに参加する喜びや未知の体験への好奇心が「楽しい」の原動力でありつつも、山崎さん曰く、「ストーリー」の存在も非常に重要だったそうです。

「ボランティアの役割とは?に関する事前説明からはじまって、リハーサル時にも舞台監督さんがショーのコンセプトについて説明してくれたり、折に触れてしっかりとストーリーを伝えてもらえたことが、キャストという“表現する立場”の人間にとってはけっこう大きくて、気持ちや意識を高める上でプラスに働いたように感じます」

そもそもショーの目的は何か?
観客や選手に何を伝えたいのか?
そのためにキャストはどういう役割を担っているのか?
コスチュームやダンスは、どういう意味を持っているのか?

そういった意味や意義をキャスト一人ひとりが理解し、共感する。その結果、自分の役割を単なるタスクではなく、ミッションとして捉えるようになる。だからこそ、一連のプロセスすべてがジブンゴトとなり、充実した体験になり得たのではないか。山崎さんは、そう振り返ります。

ポイント02「仲間とのつながり」

オフィシャルのスタッフもボランティアも一つになってショーを創り上げていく。その様子は、山崎さん曰く「文化祭のようだった」そうです。

「ボランティアに参加するのは、基本的にみんなやる気のある人たちばかり。だから、現場の空気もワクワクした感じになる。それが文化祭っぽいというか。学生の頃のようなノリとは違いますけど、何度か顔を合わせるうちに自然と会話も生まれたり、そういう仲間同士の空気感みたいなものも『みんなでいいショーにしよう』という機運とか熱みたいなものに繋がったかと思います」

様々なボランティアに参加する人たちの中には、このような「人のつながり」を求めている人が多いとか。ボランティアを募る際は、こういった「参加者同士で盛り上がる仕組み」を意識することも大切かもしれません。
「ボランティアの控室にイベントロゴを配置したり、ちょっとした工夫で、当日の期待感が高まったり、やる気が出るんですよね。私自身も、そういう場所でみんなと写真を撮って盛り上がったり、連絡先を交換したりしましたから」

「ちょっとやってみようかな」で新しい世界に出会える。

みんなの気持ちを一つにする「ストーリー」。
「仲間とのつながり」が生み出すワクワク感。
それらが組み合わさって生まれる「楽しさ」。

こういった要素は、スポーツイベントのみならずボランティア全般に関しても非常に重要なポイントと言えるかと思います。

ボランティアというと「社会貢献」といった側面が強調されがちですが、そこに「楽しさ」をプラスすることで、ボランティアはもっと身近になり、多く人の参加を促す原動力になり得るのではないでしょうか。

実際、ボランティアを趣味として楽しんでいる人も少なくないとか。山崎さんも、生まれてはじめてのボランティアで体感した「楽しさ」をきっかけに、様々なボランティアへの応募・参加を続けており、「みんなもっと気軽にボランティアを楽しんでほしい」と語ります。

「やるからにはちゃんと責任をもって役割を果たす必要はありますけど、やるべきことが明確なので仕事のようなストレスはない。いい意味で気が楽なのも、ボランティアのいいところだと思います。
パッと会場に行って、指示に従って役割を果たすだけでも、けっこう気分がいいもんです。しかも人の役に立つことができて、感謝されたりもする。本当に純粋に楽しいです。
観客席でビールを飲みながら応援するのも最高ですけど、ボランティアというかたちでのイベント参加にはそれとは違った楽しさがあります。
ボランティアというと特別なことのように思うかもしれませんけど、『ちょっとやってみようかな』くらいの気持ちでいいと思います。たとえ小さなことでも『新たな挑戦』は、きっとその後の人生に様々な影響を与えてくれるはず。ぜひ、そういう原体験を増やしていってほしいと思います」

東京レガシーハーフマラソン2023 ※ランナー受付と本番時のコース整理のボランティア活動を行いました。

山崎さん自身、「ちょっとやってみようかな」から始めて、今やボランティアは「職場でもない、家庭でもない、第三の場所」として大切な存在になっているとか。 「今の私にとってボランティアは人生の楽しみの一つです。50歳を過ぎた今になって、新しいスイッチが入った感じですね。家族はあきれていますけど(笑)。これからもいろいろなボランティアに参加して、私自身も楽しみつつ、周りの人にも喜んでもらえるような、そういう時間をできるだけ多く経験していければと思っています」

to be continued

スポーツビジネスの現場では、目の前の集客だけではなく、より長期的な視点でのファンづくりやエンゲージメント強化も重要な課題となっています。
こういった点に関しても、ボランティアは大きな可能性を秘めているかと思います。

試合を楽しんでもらうだけでなく、その先に「ボランティア」という道を用意することで、「観客」や「ファン」という域を超えた喜びを提供する。そして、そういった体験を通じて絆を深め、「選手やチームを支える存在」になってもらう。
このような仕組みをうまく構築できれば、チームやリーグ、競技が持続的に発展していくための重要な基盤になり得るのではないでしょうか。

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