それでも夢を見続けたい大人たちへ。 「Second Life Challenge Area」〜NE Story Vol.04〜

EMOTION Text by:松本 聡

プロフェッショナルとしては、可能な限り完璧を目指したい。

 

しかし、新しいことを始める時は、完璧を求める姿勢が逆効果になる場合もある。

 

完璧を目指すあまり、企画・設計段階でいろいろ考え過ぎて身動きがとれなくなったり、なんとか実制作まで進んでも、盛りだくさん過ぎて個性や特徴が曖昧になってしまい、誰にも嫌われないけれど誰にも好かれないものが出来上がってしまったり。

 

近年では、こういったことへの反省に基づき、完璧でなくてもいいから、最小限の仕様でもいいから、まずプロトタイプを制作し、改善・改良を重ねて精度を上げていくというケースも増えているようです。いわゆる「アジャイル」や「プロトタイピング」と呼ばれる開発プロセスです。

 

「New Emotion」プロジェクト(「あらたな体験価値」の創造を目指す自主企画)の企画開発も、この発想で進められています。今までにない体験を生み出そうとしているのだから、過去のデータや既存のアイデアの中に正解はない。だったら「完璧でなくてもいいから、まず叩き台を作ろう。そこから次に進むヒントを得よう」というわけです。 完璧より前進を重視するスタイルは第1弾シリーズの企画すべてに共通していますが、今回ご紹介する「Second Life Challenge Area」は、特にその色合いが強い企画といえます。

26歳と、タピオカと、アラフィフと。

「Second Life Challenge Area(SLCA)」は、アラフィフ男性が、第二の人生のプランを思い描き、その実現に向けて第一歩、第二歩を踏み出すことのできる場所。「こんなセカンドライフが実現できたら……」という夢を疑似的に体験できる、「大人のキッザニア」ともいえるコンテンツです。

「New Emotion」プロジェクトは、企画チームのメンバーたちが自分自身をターゲットにして「本当にほしいもの」を考え、企画を発想することを基本としています。しかし、「SLCA」は、あえて自分たちとは直結しないターゲットに向けて考案された企画。 主担当の加持は、企画が発足した時点では24歳。アラフィフ世代の半分ほどの年齢である彼が、なぜこのようなターゲットを選んだのでしょうか。

SLCAを考案した加持

加持:「お前は20代には見えない」「考え方がおっさんみたいなときがあるよね」って、よく言われるので、それで……。というのは冗談ですけど、新規企画をやるからには本気で成功を目指したいので、アラフィフ世代なら、人口も多いし、自由に使えるお金も持っているし、市場開発のターゲットとして有望じゃないかと考えたんです。

 

――確かに現在のアラフィフ世代は、団塊ジュニア、第二次ベビーブーマーと呼ばれる人たちを中心に、日本の人口構成で最大のボリュームゾーンとなっています。

 

加持:この年代の人たちは、会社の中とか世の中的にも、それなりの立場にいることが多いので、うまく取り込めれば、世の中に新しいムーブメントみたいなものを起こせるんじゃないかっていう思いもありました

 

――でも実際のところ、20代でアラフィフ向けの企画を考えるのは、なかなか大変だったのでは? 加持:自分は流行とかに乗るのが嫌いなんです。タピオカとか一回も飲んだかことがないですし。天邪鬼というか、「あんなの意味わからない」って思っちゃうんです。

――タピオカ……、ですか……。

 

加持:こういうタイプなので、20代に受ける企画を任されても歯車が合わなかったと思うんですよね。それよりも「アラフィフ向けに企画を考えて」と言われた方が、むしろ「やってやろう」みたいな気持ちになります。

 

――なるほど逆境の方が燃えるタイプですね。

 

加持:もともと大学で建築を勉強していたんですけど、その頃から「何か建てるなら、大都市じゃなくて誰もいない場所に建てた方が面白い」とか思ってまして。大都市だったら、どんな建物を作ってもそれなりに人が集まりますよね。でも、あえてぜんぜん人がいない場所に建物を作って、それを目当てに多くの人が集まったら、そっちの方がすごいじゃないかって。

コンテンツを考える上で設定したアラフィフ男性のキャラクターイメージ

よくわからない時は、前進してみよう。

未知のターゲットであるアラフィフ世代にあえて挑む加持。 その若さや心意気とは裏腹に、企画を生み出すプロセスは、なかなか堅実だったりもします。

 

――アラフィフのニーズやマインドに関して、どうやって仮説を立てていったのですか?

 

加持:これも建築学科出身だからかもしれないですけど、何かを考える時には根拠となるものが欲しいんです。真っ白な紙にいきなり絵を描くんじゃなくて、まず土台を作って、そこにいろいろ積み重ねたり、発展させていく方が自分には合っていると思っていて、だからこの企画を考える時も、まず根拠になるものが欲しくて、社内のアラフィフ世代にアンケートをしました。

 

――セカンドライフに関するマーケットリサーチですね。

 

加持:でも回答が3人分しか集まらなくて(笑)

 

――それは確かにちょっと……。

 

加持:ぜんぜん少ないですけど、とにかくそのアンケート結果をもとに企画を進めました。一度、企画をまとめあげて、そこに賛否を寄せてもらってブラッシュアップすればいいだろうって。

 

――企画書を見て「こんなの俺たちアラフィフの実像と違う!」と言われたら、「じゃあ、実際のところどうなんですか?」って聞き返せますもんね。

 

加持:そうなんです。3人分じゃぜんぜん足りないのはもちろんわかっていて、そこの精度を上げたければ、この企画をベースに300人、3,000人にアンケートをすればいい。でも今の段階では、企画の精度よりもコンセプトとかメッセージの方を重視しました。

COLUMN:「Second Life Challenge Area」コンセプトシート

「新たなライフスタイル」「希望に満ちたセカンドライフ」の実現をサポートする体験型コンテンツ。バーチャルとリアルをミックスさせた空間で、様々な趣味やアクティビティ、ライフスタイルを疑似体験し、仲間と語り合う中で、叶えたい夢や希望が見つかり、気持ちが膨らむ「大人のキッザニア」。

夢を見続けなければ、夢は叶わないから。

「SLCA」は、定年後のセカンドライフに向けて、様々なアクティビティやライフスタイルを疑似体験するというコンテンツ。一見すると、レジャーやエンターテイメントのようなコンテンツにも思えますが、じつはその根底には「夢を持って生きよう」「夢を見続けよう」というメッセージが込められています。

 

加持:アラフィフの人たちの多くは「リタイアしたら好きなことして暮らしたい」という気持ちを持っていると思うんです。私もできるならそうしたいですが(笑)。でも一方で「好きなこと」や「やりたい」が見つかっていない人もけっこういる。いや、むしろそういう人の方が多いんじゃないでしょうか。

スキューバダイビングを趣味にしたいアラフィフ男性のサクセスストーリー

――やりたいことがある人は、もう始めていますもんね。

 

加持: 「SLCA」は、やりたいことが見つかっていない人に対して、定年になってから探すのではお金と時間がもったいないから、まずはここでいろいろ疑似体験してみてください、というコンテンツなんです。

 

――現実に追われるあまり、夢を見ること、夢を追うことを忘れてしまうというのは、アラフィフに限らず多くの人に当てはまるかも。

 

加持:何かにチャレンジしたくても、時間とかお金とか、それなりに強いモチベーションも必要だったりしますからね。

 

――だから、まずSLCAで気軽に体験してみて、気に入ったら一歩を踏み出せばいい、と。

 

加持:気になるものが見つかったら、リアルで体験できるような仕組みも考えています。体験ツアーとか。あと、趣味や気の合う仲間が集まって盛り上がれたり、そういうコミュニティ機能も盛り込みたいですね。

 

――疑似体験でもいいから、いつでも夢に触れられる環境があって、同じような夢を持った仲間がいる……。リタイア後に向けた準備のはずが、もはやSLCAそのものが目的になってしまいそう。 加持:そうなってくれたら嬉しいですね。

海上に浮かぶ、スキューバたちの隠れ家バー。壁面には、他の海のスキューバたちと通信できるモニターがある。

軸さえブレなければ、アウトプットのカタチは何でもいい。

現在、「SLCA」はPDCAのP(Plan)を終え、D(Do)のフェーズに向けて進んでいます。プロトタイプとして組み上げた企画を、どこに提案すればいいか?どのように提案すればいいか?を、日々、模索しています。

 

――提案先の候補は? 加持:今は、ある地方自治体を第一のターゲットにしています。

 

――地方自治体とは、いきなりハードルの高いところを攻めますね。

 

加持:その自治体は、すでに大学と共同でセカンドライフ関連の取り組みをしていて、最初に提案するなら、そういう素地のあるところの方が話が早いというか、聞く耳を持ってもらいやすいだろう、と。

 

――とはいえ、いきなり提案しても簡単に受け入れてもらえるとは思えませんよね。

 

加持:はい、いきなり「SLCA」の話をしても無理でしょうね。だから、まずはイベントとか、空間デザインとか、体験設計とか、ムラヤマの得意分野を活かして、なんとかその自治体に食い込んで、そこから信頼関係を築いていければと考えています。

 

――行政や自治体などは、前例や実績を重視する傾向が強いですもんね。

 

加持:現在は、予算書や中長期の市政プランなどを調べながら、攻めどころを探している段階です。予算を重点的に投入しているプロジェクトや、これから力を入れていこうとしている施策などを探った結果、いくつかアタック候補が浮かび上がってきました。まだ秘密ですけど。

 

――そうやって攻めどころを見つけて実績を重ね、いつか満を持して「SLCA」を提案するわけですね。

 

加持:いや、じつは「SLCA」そのものには、そんなにこだわってないんです。もちろん実現できたらいいですけど、それだけが目的じゃないんです。「SLCA」を起点として、いろいろ調べたり、提案相手に合わせて練り直したりする中で、まったく別の企画が生まれたら、それを実現していければいいかな、と。

 

――アラフィフ世代向けのコンテンツではなくなる可能性もある?

 

加持:ぜんぜんあります。自治体の課題が高齢者とか子どもだったら、それ用の企画をあらためて考えると思いますから。

 

――「SLCA」は、あくまできっかけにすぎないんですね。

 

加持:むしろ、ここからどんな派生が生まれるか、そっちの方が楽しみだったりします。極端な話、軸さえブレなければ、アウトプットのカタチはなんでもいいと思っています。

 

――その軸とは、どんなものですか?

 

加持:すごくフワッとした話になってしまうのですが、やっぱり「人の暮らしを豊かにしたい」とか、そういうことですね。「SLCA」も、アラフィフのみなさんの定年までの暮らし、定年後の暮らしを豊かにするということが根底にあります。もし、ターゲットや企画そのものが変わっても、「暮らしを豊かに」というところだけはブレないようにしたいと思っています。

 

わずか3人の意見を基に仮説を立て、企画を組み立てる。 そして、自治体やその関連団体へアタックする。 本人もわかっていることながら、これからの道のりは決して楽なものではないでしょう。 おそらく、何度となく空振りすることもあるでしょう。

でも、たとえ企画が受け入れられなくても、それが失敗だとは言えないはずです。 ゼロからのスタートなのですから、すべての経験が学びとなるはず。 試行錯誤も紆余曲折もすべて糧になるはず。 加持の挑戦は、これからが本番です。

他にも、リアリティ技術を活用して「芳醇なワイン造り体験」や「ギター教室」などのコンテンツを考えている

Point of view

絵がうまくなりたかったら、たくさん描くことが大事。
そして、どんなに稚拙でもいいから最後まで描き切ることが大切。
おそらく何を学ぶにしても、きっと同じことが言えるでしょう。

ムラヤマによって「New Emotion」プロジェクトのような自主企画に取り組むのは、ほぼ初めての試みです。当然、企画を組み立てる上で、わからないところ、不完全なところも多くあります。
それでもチームのメンバーは、みんなそれぞれに絵を描き切りました。
そして、最後まで描き切ることで、確実に変化が生まれています。
自分自身の意識や目の変化、あらたなパートナーと出会い、予想外のコラボレーションなど。
この変化がどこへたどり着くのか、それはわかりません。しかし、このままアクションを続けていれば、きっと化学反応や突然変異が起こり、そこから新しい未来が始まるはず。
「New Emotion」プロジェクトのメンバーは、そう信じています。

「SLCA」も、その他の2企画も、化学反応や突然変異を積極的に起こしながら、さらなる進化、さらなるメタモルフォーゼを目指します。
幼虫からサナギへ、サナギから蝶へ。
「New Emotion」プロジェクトの変遷と変貌と、その先にある想定外の未来をお楽しみに。

Profile

加持翼 Tsubasa Kaji
東洋大学理工学部建築学科出身。2018年4月に新卒で入社
「面倒くさがりの負けず嫌い」な性格と自負している。
一人暮らしを始めて、料理に興味を持ち始める。挑戦してみたいことは焼き菓子。

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