展示デザイナーがなぜ音声コンテンツをつくるのか?(後編) ソニーの担当者が語る、Locatone™(ロケトーン)の魅力

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ソニーが開発したSound AR™サービス「Locatone」は、特定のスポットを訪れると自動的にその場に応じた音声や音楽がスマホから聞こえるサービス。オーディオガイドとはまた違った魅力のあるサービスです。 前編ではムラヤマがLocatoneの制作をはじめたきっかけとなった「水を感じる。川の息吹を聴く街歩き」の受賞や、2作目の「しろのおと」について語りました。 この後編では、3作品目の「少年と 」と、Locatoneのユーザー層や、どんなジャンルと相性がいいのか、また、これからの可能性について語ります。

人気声優や俳優をキャスティングし、遠方から訪れるファンも

ーー「少年と 」は「水を感じる。川の息吹を聴く街歩き」と「しろのおと」の2作品を経て3作目として作られましたね。

 

寺田:「少年と 」は、千葉県立美術館が主催する、五十嵐靖晃さんというアーティストの方の展覧会を弊社が手掛けていたことから始まりました。美術館内での展示がありつつ、巡回できる屋外展示もあったのだったので、相乗効果でなにか作れないかと思いました。前2作はユーザーが主役になるツアーでしたが、今回はオーディオドラマ形式で第三者目線で聴くイメージで制作しています。『名探偵コナン』などにも出演されている人気声優の高木渉さんと、元宝塚で俳優の美弥るりかさんに出演いただき、遠方から訪れるファンもいて反響は大きかったですね。

Locatoneのユーザーは声優さんのファンという方は多く、いままでアートや美術館に興味のなかった方が、これをきっかけにその場所に興味を持ってもらえてよかったなと思っています。

『少年と 』

少年・少女時代のあなたは、どこで、誰と、どんな夏を過ごしていましたか?そして、現在のあなたはどんな夏を過ごしていますか?アーティスト・五十嵐靖晃による回遊型美術展覧会「海風」にインスパイアされた少年時代の夏の記憶をめぐるモノガタリ。千葉みなとを歩きアートを観ながら、聴く、体感する全く新しい音声ガイド!幼馴染の葬儀に出るために地元に帰って来た主人公を髙木渉さん、主人公が出会う不思議な少年役を美弥るりかさんが務めます。

中井: 「少年と 」はキャスティングや脚本、演出含めて、制作会社の日テレアックスオンさんにお願いしました。普段の僕らと違う領域でお仕事されている方たちなので勉強になりました。人気の声優さんをキャスティングしていただいたことで再生数も伸びましたし。

ロケトーンの魅力、これからの可能性

ーーLocatoneは声優さんファンをきっかけに入ってくるユーザーが多いということですが、ほかにはどんなユーザーがいるのでしょうか? また、改めてLocatoneはどういうシチュエーションと相性がいいと思いますか?

中井: 観光地に行って、Locatoneってものがあるんだ、やってみようという方もいらっしゃいますね。でも時間のないなかで観光をしているとなかなか難しい。そこは旅行代理店さんと一緒に考えていかないといけない課題です。

 

青山: 時間がない人向けの最短ルートと、時間がたっぷりある人向けの長めのルートの2つを提供する方法もありますよね。

相性が良い場所という意味でいいますと、城郭系は非常に相性がいいと思います。城郭には、伝えるべきストーリーがたくさんある一方で、残ってる建物は少なかったりするいので、どうやって楽しんで良いか正直分からない人も多いんじゃないかなと思います。そんなときに、有識者や好きなタレントが耳元にいて、一緒に巡ってくれると楽しいですよね。

 

八木: ほかにもホラー系も相性がいいです。妖怪や妖精など目に見えないものも同じくですね。それにインバウンドの需要は高いです。日本の色々な土地の魅力や歴史や文化を知りたいという観光客は多い。いまオーバーツーリズムの問題が起きていますが、海外の方の目線では、日常の街や暮らしに興味を持つ方も多いので、観光地と観光地をつないだり、なかなか魅力を伝えきれていない場所もコンテンツにできるのがLocatoneの良さです。

 

中井: 僕は個人的に観光デザインがやりたいんです。海外の方は外国に行くとミュージアムに行きますよね。でも日本はミュージアムが少ないし、だいたいは有料なんですよ。「地球まるごとテーマパーク」はまさにピッタリで、元々ある街の資源を展示物として捉えた時に、ミュージアムを建てることではなくミュージアム化できる。そういった動線があると、グッズをつくったり展示物もつくる必要も出てくる。Locatoneの先にまた新たなビジネスが生まれると思います。

 

八木:「街まるごとミュージアム」にできますよね。それに、ミュージアムでは展示物を見た後にミュージアムショップでグッズが欲しくなるのと同じように、Locatoneの体験をすることで街中でお客様が消費したくなるきっかけを与えることもできると思います。

 

ーーそれに、いま子どもたちはYoutubeで勉強をしている時代です。今後、テキストよりも音で学ぶことが受け入れやすくなってくるのかもしれないですね。

青山:文字を読むのは集中力が必要だったりしますよね。その点、音声だと気軽に聞けます。ただ注意すべきは、単純に情報を読み上げるだけだと、頭に入ってこないです。その点、ムラヤマさんのコンテンツはドラマ仕立てで、聴いていて自然に興味が湧いてくるし、結果としてどんどん詳しくなれます。

それに、やっぱり行ってみないとわからないことってありますよね。石垣を写真で見て分かった気になっていても、実際に行ってみると「ひとつひとつの石がこんなに大きいんだ」とか、現場でしか得られない体験がありますし、そういったことは後々忘れません。

 

八木: 歴史の教科書を読むのと大河ドラマ見るのとでは、どっちが頭に入ってきますかって言ったら、絶対大河ドマの方がわかりやすくって、それをさらに現地で体験できるのがLocatoneの良さ。街を歩きながら、知らず知らず学習してるみたいな感じでしょうか。音を聴くと同時に身体を動かすことで、記憶として定着しやすいと思います。

 

ーー寺田さんはコンテンツを作る側として、なにか意識されていることはありますか?

寺田: 情報をただそのまま伝えないことが一番大事かなと思います。説明すると本当に頭に入ってこないので、そこで物語を使う。その情報の精査や伝え方のバランスは意識しています。また、目に見えないものを扱うと想像力を使い、記憶に刻まれると思うので、自分の頭で考えてみることができるような余白をつくるように意識しています。

序盤はこういう気持ちにさせたくて、終盤はこういう気持ちにさせたいから、じゃあ手前はこういう展開を入れよう……というような細かなことを毎回考えていますね。展示とLocatoneのツアー制作は設計の仕方が近いので、展示のノウハウが活きています。

 

八木: 人間の想像力に勝るものはないですね。ビジュアルで見せるよりも、何倍も想像しているのかもしれません。

 

金平: 我々は展示デザイナーなので、正直選択肢がすごく広いんですね。 紙でやるのか、映像でやるのか、たくさんの選択肢がある。それを組み合わせて深く作り込んでいくというのが気質というか、深くなりがちなんですね。寺田がつくるものは、次のスポットに行くまでのお客さんがこれぐらいのスピードで歩くだろうなっていう分数も完全に計算しています。ただ、難しいのは物を動かせないんですよ。遺跡があったらこれくらいの体験にしたいからって、遺跡を100m手前にできないんですね。展示物だったらすぐに動かしてしまうんですが(笑)。

 

青山:ムラヤマさんのコンテンツは行動デザインが中心にあるんですね。Locatoneはオーディオブックではない現地体験型のメディアなので、我々もムラヤマさんのコンテンツから学ぶことは多いです。

 

ーー城下町での観光をはじめ、これからも色々な分野でLocatoneが活用されそうですね。しかもその先にまた違ったビジネスや体験が生まれる可能性があるから、展示やグッズなど大きな視点で考える必要もありそうです。今日は楽しいお話をありがとうございました。

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記憶に残る体験を生み出すことができるLocatoneは、看板や造作物をつくるのではなく、いまある街の資源をコンテンツに変えることができるのが大きな特徴です。ムラヤマでは、空間設計で培ってきたノウハウを活かし、唯一無二のコンテンツを制作することができます。また、グラフィックやサイン、グッズなどLocatoneを含めた包括的な提案も可能です。観光や地域ブランディングの選択肢のひとつとして、ぜひご検討ください。

※「Sound AR」および「Locatone」はソニーグループ株式会社またはその関連会社の商標です。

撮影(ポートレート):齋藤誠一

編集&執筆:井上倫子

 

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