ポッドキャストの普及や声優ファンの増加などもあり、音声メディアへの注目は年々高まっています。 ソニーが開発したSound AR™サービス「Locatone」は、特定のスポットを訪れると自動的にその場に応じた音声や音楽がスマホから聞こえる、音の拡張現実を体験できるサービス。音声を聴きながらスポットを巡ることで、その場所の新たな魅力を知ることができます。 ムラヤマでは、数年前からこのLocatoneを使ったコンテンツを制作しています。展示会場のデザインを手掛ける会社が、なぜLocatoneのコンテンツをつくるのでしょうか? 今回はムラヤマの寺田忠勝(写真左)と金平彩(写真右から2番目)、中井利明(写真右)、ソニーの青山龍さん(写真左から2番目)と八木泉さん(写真中央)がLocatoneの魅力、そしてムラヤマが手掛けた3作品について、前編、後編の2回に分けて語ります。
気軽に応募したら、まさかのグランプリ受賞
八木泉(ソニー:ビジネスプロデューサー/以下、八木):
Locatoneは「地球まるごとテーマパーク」をビジョンに掲げたサービスです。テーマパークへ行くとテーマに合わせたBGMが流れてきて、一気に世界観に入れるような仕掛けがされていると思います。あらゆる場所をテーマパークのように、エンターテイメントの場に変えたり、その場の持つ魅力を伝えたりできないかと考え、2020年に始まりました。
現在はビジュアルのARに注目に集まっていますが、我々が着目するのは音です。
ビジュアルのARは、スマートフォンの画面越しになったり、何かしら特別なデバイスを装着しなければならなかったり、ハードルも高い。音であれば現実世界の風景や会話も大事にしながら、新しい価値を加えることができるのが魅力だと考えています。
体験者の身体の動きに合わせて効果音を鳴らせる機能や、選択した行先に応じてエンディングが変わるようなゲーム要素もあり、参加型の体験がつくれるのがLocatoneの強み。現実世界がRPGになるじゃないですけど、ゲームや立体音響技術を手掛けてきたソニーの技術力があるので、臨場感や没入感のある体験型コンテンツには自信があります。
寺田忠勝(ムラヤマ:デザイナー/以下、寺田): 他社はプラットフォームのみを提供していることが多いのですが、Locatoneは制作者であるクリエイターが使う制作ツール「Locatone Studio」と、ユーザーの回遊やデモグラフィックがわかる「Locatone Analytic」というプラットフォームがあるのも特徴ですよね。使い勝手がとてもよく、ブラウザで使えるので、現場ですぐに修正できるのが助かっています。
八木:Locatoneは現地体験型のメディアなので、現地をどれくらい事前に調査しているかはコンテンツの質に現れてくるんですよ。さすが空間デザインのプロということもあり、ムラヤマさんが作成したコンテンツはどれも質が高く、現地で体験する方々の行動をよく考えられてるなと感じています。
ーー寺田さんは「Locatone Creator Contest 2022」で、「水を感じる。川の息吹を聴く街歩き」の作品がグランプリを獲得されましたよね。なぜ応募しようと思ったのですか?
寺田: ちょうど仕事で、目が見えない人や耳が聞こえない人に対しての展示のアクセシビリティについて考える機会があり、音声コンテンツに興味をもっていました。人間は目で見る情報が大半を占めますが、耳や香りを使うと相乗効果がありますよね。勉強がてらというか、 ちょっとトライしてみようと応募しました。最初は企画書を提出し、ファイナリストに残ったら実際にコンテンツをつくるというものでした。
中井利明(ムラヤマ:クリエイティブディレクター/以下、中井): 寺田くんがファイナリストに残ったと聞いたとき、僕らのいままでのノウハウで言うと映像制作に似ていたんで、いけるかもなと思ったんです。
水を感じる。川の息吹を聴く街歩き
目には見えないけれど変わらず流れ続ける、暗渠化された渋谷川に意識を向ける、気付きのサウンドエンターテインメント」。川の音やキャラクターと織りなす物語・解説を聴きながら、「水の音と歴史に触れる街歩き」
「水を感じる。川の息吹を聴く街歩き」は暗渠になっている渋谷川をテーマにしていますが、なぜこのテーマを選んだのですか?
寺田: マニアックな目線で語るテレビ番組の「ブラタモリ」で暗渠をテーマにした回をみたことがあって。目に見えないものを感じながら歩くことが楽しみになってる人たちにとって、音を軸に体験できるLocatoneは相性がいいのではないかと思ったんです。
青山龍(ソニー:ビジネスプロデューサー/以下、青山): この作品は渋谷ストリーム横の、渋谷川が見える場所から始まるんです。こんなところに川があったのかと気づかされる。この川はどこから来て、どこへ流れていくんだろうと気になり……。渋谷の裏の顔にも目を向けさせてくれるコンテンツでした。
八木: グランプリは割と満場一致でしたね。普段気づきにくい暗渠に注目したのも面白かった。Locatoneは目に見えないものへの想像力を働かせるということに適しているんですよ。さらに、ユーザーが歩くスピードや距離を考慮した上で、ひとつひとつのスポットの音声の長さも調整されていて、体験設計がとてもしっかりされていました。Locatoneは普通の音声コンテンツとは違い、ユーザーが実際に歩いたり、身体を動かして体験することが前提なので、それがきちんと考えられている。コンテスト後に寺田さんが空間のデザインを手掛けられている方と知ってなるほどと納得しました。
青山: それに次が気になるストーリー展開も秀逸だったなと思います。神様が出てきて、キャラクターが次々と出てくる感じも良かったですね。
城下町での課題にフォーカスした、「しろのおと」をリリース
ーーグランプリの反響はいかがでしたか?その後「しろのおと」と「少年と」の2作を制作をされていますね。
寺田: 社内ではグランプリを取ったことで話題になり、企画のなかにこのLocatoneを組み込めないかという話も出てきました。
金平彩(ムラヤマ:プロジェクトマネージャー/以下、金平): 弊社は以前から、お城がある日本各地の自治体やグッズを販売する企業・団体が出展するイベント「お城EXPO」の共催をしています。2023年は姫路城が世界遺産に登録され30周年ということもあり、「特別版 お城EXPO in 姫路」が行われることになっていました。そこでLocatoneはお城との相性がいいのではないかと思い「しろのおと」に挑戦したんです。
制作期間はタイトでしたが、ぜひやりたいと思いました。Locatoneがまだ世の中にあまり広まっていないタイミングだったので、お城ファンへ「しろのおと」をPRするには、このイベントがピッタリの機会だったんです。
寺田: そこで姫路城の城下町を巡るコンテンツを作成しました。姫路城という大きな観光資源があるが故に、そこにだけに観光客が流れてしまうという課題があります。それに城内で楽しめる音声ガイドはすでにあったので、街の観光の問題と組み合わせて、いかに城までの道中で機運を高めるかに焦点を当てました。
しろのおと〜姫路城下街歩き〜
姫路の街に愛される姫路城を題材に、物語性のあるストーリーと音の演出を体験してみませんか?過去から現代へ時を超えてきた姫路城の守り手“しろ”と出会ったツアー体験者が“しろ”を過去に戻すため、各地に眠る歴史の音ーー「音脈」を巡るゲーム性のあるストーリーで、「音脈」を集める旅へ出かけましょう!
八木: 観光地が一箇所に集中してしまうという問題は、日本各地で問題になっていますよね。
中井: そうなんです。姫路市役所の方も、もっと経済的にするには、やはり滞在時間や回遊性を高めていきたいとおっしゃっていました。ただ、我々はお城EXPOに併せて先に制作してから市役所の方とお会いしたので、「なんで作ってから来たんですか」と言われましたね。売り込まずして制作したので(笑)。
金平: でも結果、多言語展開したいという声もいただき、ビジネスに落とし込む点で得たものは大きかったです。人を回遊させたい自治体と、城だけを目的にやってきたユーザーとにギャップがあるので、そこを上手くつなげばサイクルが回るのではないかと思っています。くまなく巡りたいと思わせるようなストーリーもですし、さらにプロモーションをどうするかも考えていくことが必要ですね。
ーーしかも、ロケトーンは看板などの造作物を作るわけではないから、街の雰囲気をそのまままに楽しめるのが大きなメリットですよね。
金平: そうなんです。我々は展示デザイナーなので、リアルなものの制作への苦労はすごくわかります。Locatoneはそのハードルが低いだけでなく、ユーザーの行動データも得られるのが素晴らしいですね。
八木: スピーディに修正できることも大きなメリットですよね。ほかにも、季節ごとに環境音を、夏は蝉、秋は鈴虫の音色にするなど変えることもできます。
中井: 修正がしやすいのはありがたい。僕らの会社は造作物をつくることがメインですが、Locatoneに関してはセールスシートにも「造作は不要でコストが低いです」と書いていますね(笑)。
後編に続く
※「Sound AR」および「Locatone」はソニーグループ株式会社またはその関連会社の商標です。